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連載・ソウル(魂)、旅する・6~尾行~

パパはある日、ひとりで出かけた。

僕はそれに気づいてか、無意識か、だまって後を付いて行った。

少しだけ薄暗いレンガと石づくりの街で人通りが結構ある。

パパは立ち止まった。左手にケーキ屋さんがあり、

店頭で店員が「ただいま試食を行っています、中へどうぞ」と

両手でケーキの乗ったショーケースを掲げている。

チョコレートのバームクーヘンのようなケーキ。

パパは甘いものが好きだけれど、見た目、あんまり美味しそうでもないなあ。

ぼんやりしていると、パパが見えなくなった。

ヤバイ、見失った?

この街、僕知らないところだし、パパ見失ったらおうちへ帰れない。

ヤバイ、どうしよう・・・。

いや、大丈夫。パパはいつも教えてくれた。心を鎮めて、目を瞑って・・・。

Photo

サザナミ by akiko.

・・・階段が目の前に広がっていた。

階段の先は大きな大きなシャンデリアがあるレッドカーペット。

その奥には部屋が広がっている。豪華だ。

その部屋でどうやら試食のケーキを食べさせてもらえるらしい。

まるで中世のヨーロッパで王子様とお姫様がいそう。

でも、いるのは日本人らしき人、あと犬や猫もいる。

・・・

レッドカーペットの階段部分に到達するまでは

グレーのコンクリートのような階段。

狭い、人ひとり登るのがやっと。

その階段を日本人と犬や猫が列を成して登っている。

気づくと、僕のふたり前にパパがいた。

僕は必死でついていった。

途中、パパが振り返る、僕は顔を横にして目をそらした。

しばらくして恐る恐る前を見ると、パパはまた前を見て登っていた。

ほっとして僕も登る。

ようやくレッドカーペットの前の広い踊り場に出て、

ケーキ屋の店員が「みなさん、試食はこの上の部屋です。」と

言った瞬間、僕はパパと目が合った。

油断していた。怒られるのかと思いとっさに後ずさりした。

後ずさりしながら、わかった・・・。

パパの目を見て、わかった。

一瞬、スローモーションのように感じた。

パパはまわりのみんなを見ながら、

「この人たちは誰だろう」という顔をしていた。

パパは僕のこともわからない?

・・・

僕のことを見てるのに「君の事は知っている気がするけど、誰なんだ?」

という顔をしている。

僕もわからなくなってきた。

なんなのか?これは?夢?

・・・

そして、僕はさっきやっと苦労して登ったグレーのコンクリートの階段を

一気に転げ落ちていた。

振り向くと、パパはまだ僕を見ていた。

僕を見下ろして、2歩、3歩・・・近づいた・・・

僕は聞こえた。

「着いてくるんじゃない」

その顔は、威嚇しているようにも悲しそうにも見えた。

その時、初めて気がついた。

パパの服装。

いつもお仕事に行くときのスーツ姿だけど、

僕が見たことの無いスーツだった。

もうひとつだけ違った。

いつもお仕事のとき、持っていくはずの

黒くて大きなビジネスバッグを

その日のパパは持っていなかった。

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